後期高齢者医療制度は必要だ

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第401回(2008年12月06日)
後期高齢者医療制度は必要だ

プレビュー

 自民党は2日、「姥捨て山」などと批判されていた後期高齢者医療制度の見直し案を、3月末までにまとめる方針を固めたようだ。

 今年4月に始まった後期高齢者医療制度は、83年から実施されてきた老人保健制度(老健)に代わる新たな高齢者を対象とする医療保険制度で、75歳以上の高齢者の医療費の負担分担などを定めている。しかし、後期高齢者というネーミングの悪さや、保険料が年金から強制的に天引かれることの負担感、そして75歳以上の高齢者だけを切り離すことから、「姥捨て山」などの批判にさらされ、実施から半年も経たないうちに、舛添厚労相が見直しを表明するにいたっていた。

 確かに、後期高齢者医療制度が、対象となる高齢者に対して一定の負担を求める制度であることは間違いない。しかし、日本が世界に誇る「国民皆保険制度」は、いまや存亡の危機に瀕している。一人あたり40歳代の5倍かかると言われる高齢者の医療費を賄うためには、現役世代と高齢者の負担割合を明確に定めると同時に、高齢者の医療費の不必要な高騰を防ぐ仕組みが不可欠だ。これまで日本の医療費は税収を大きく上回るペースで増えており、このままでは時間の問題で日本の皆保険制度は破綻することが目に見えている。そうした中にあって、人口が多い団塊の世代が75歳に達する前に、持続可能な医療保険制度を確立しておくことは、次世代に対する責任でもある。

 財政学の専門家で、財政面から社会保障制度の問題点を指摘している慶應義塾大学経済学部の土居丈朗准教授は、後期高齢者医療制度について、改善の余地はあるとしながらも、その必要性を擁護する。その理由は明快だ。

 まず、既存の老人保健制度が、問題がありすぎる制度だった。これまで75歳以上の高齢者の医療費は、老健制度のもと、患者負担(1割)と医療保険の各保険者からの拠出金と税金によって賄われてきたが、これは高齢者の医療費を事後的に配分する会計の仕組みにすぎず、運営の責任主体さえ存在しない、到底保険制度とは呼べないような代物だった。運営主体が存在しないため、いくら費用がかかろうが、抑制力が働かない。要するに、いくら費用がかかっても、それを単に他へ会計的につけ回していればいいという、いたって野放図な制度が老健だった。それが、高齢者の医療費急増の一因となっていたことは間違いない。

 後期高齢者医療制度は、75歳以上の高齢者を対象にした独立した制度で、それを本人1、現役4、公費5で分担して支えていこうという制度だ。また、運営主体を県単位の広域にすることで、保険料の差を現行の5倍から約2倍にまで縮小している。後期高齢者医療制度は、これまで繰り返し指摘されてきた老健の問題点を、そっくり改善した仕組みであるといえる。

 しかし、長年課題だった老健の欠陥を補うこの制度が今、事前説明の足りなさとプレゼンテーションの悪さ故に、制度の本義が理解されることのないまま、政治的な理由から、見直し論にさらされている。自民党の見直し案は、制度の本質は温存したまま、悪名高かった「後期高齢者」の呼称を「長寿」に変更したり、自己負担率を微調整したりする程度の弥縫策にとどまる模様だが、民主党はいったん制度を廃止し、問題の多い老健制度に戻すことを主張しているのだ。

 もっとも、後期高齢者医療制度が存続しても、日本の社会保障制度が抱える本質的な問題が解決されるわけではない。企業の健保組合が老人加入率の高い国保の負担を肩代わりをしている構造は、後期高齢者医療制度導入後も変わっていないのだ。08年度推計では、勤労者が納めた健保保険料の約45%が高齢者医療への支援で消える。その影響で、約9割の健保組合が赤字に追い込まれており、今年に入ってからも健保組合の解散が相次いでいる。

 高齢者医療の運営方法が決まった今、政治的な理由で不毛な見直し論に陥っている場合ではない。今こそ、負担のつけ回し構造という日本の社会保障制度が抱える本質的な問題を議論しなければならない。最終的には、日本では社会保障の責任をどこまでアメリカのような自己責任に委ねるべきなのか、どこまでを保険料で賄い、どこまでを公費で負担すべきなのかといった、国家像にも関わる社会保障のあり方の本質を問う議論が不可欠となるだろう。

 急激な高齢化に直面する21世紀の日本には、どのような社会保障制度が適しているのか。適している以前に、どのような選択肢があるのか。後期高齢者医療制度の必要性と今後日本がめざすべき社会保障制度を、財政の専門家の土居氏とともに議論した。

今週のニュース・コメンタリー
・田母神前空幕長が外人記者クラブで講演
・被害者参加制度始まる
・クラスター爆弾禁止条約調印式
・「ニュース23」が3月で終了
・警察官から500万円を強請った男
・改正国籍法可決

<ゲスト プロフィール>
土居 丈朗(どい たけろう)慶應義塾大学経済学部准教授
1970年奈良県生まれ。93年大阪大学経済学部卒業。99年東京大学大学院経済学研究科第二種博士課程修了。経済学博士。01年~02年カリフォルニア大学サンディエゴ校客員研究員、02~04年財務省財務総合政策研究所主任研究官などを経て、04年より現職。専門は財政学、公共経済学。著書に、『三位一体改革 ここが問題だ』、『地方債改革の経済学』など。

December 7, 2008



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