これで薬害の連鎖に終止符が打てるのか

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第356回(2008年01月26日)
これで薬害の連鎖に終止符が打てるのか

プレビュー


 1月15日、薬害C型肝炎訴訟は国と被害者原告団の間で和解が成立し、それと前後して「薬害肝炎救済法」も議員立法の形で可決した。

 和解合意書には、被害者の一律救済の他、国が責任を認め謝罪した上で、今後の薬害防止のために第三機関を設置し原因究明を行うことなど、被害側の要望が反映された。和解合意書の署名に際し被害者たちが福田首相から謝罪を受ける場面がメディアで大きく報じられたため、世間的にはこれで薬害問題も一件落着というムードが漂っている。

 しかし、和解合意書を読むと、第三者機関の中身や再発防止策などについて、具体的な内容はほどんと何も記載されておらず、また今回の薬害肝炎の責任問題もあやふやなままだ。

 全国薬害肝炎訴訟団の代表を務めた鈴木利廣氏が、「ここからがはじまり。むしろこれからを見守るべき」と、この合意が長い道のりの第一歩に過ぎないことを強調するように、これで一件落着とせずに、これから出てくる具体的な救済策や再発防止策を厳しく見守っていくことこそが、市民社会の責務となる。

 戦後の日本はスモン、サリドマイド、薬害ヤコブ、薬害HIVなど、一連の薬害連鎖を断ち切ることができないでいる。薬害が告発されるたびに、裁判で国や製薬会社の責任が追及され、過酷な裁判を戦い抜いた被害者たちが、辛うじて謝罪といくばくかの補償、そして再発防止への誓いを勝ち取ってきたが、それでも薬害は一向に無くならない。薬害や医療過誤を多く扱う弁護士である鈴木氏は、「戦後の日本では、国が薬害事件の被告席に座っていない時が一度もない」と言うほど、日本は薬害大国となっているのが現実だ。

 なぜ日本は薬害を根絶できないのか。言うまでもないが、効果のある薬に一定の副作用はつきものだ。重病や難病への対応では、副作用を覚悟の上で、投薬を余儀なくされることもある。しかし、日本の薬害問題をつぶさに見ていくと、そうした薬の有用性議論(効果とリスクの比較考量)を遙かに超えた深刻な「癒着問題」が姿を現す。

 たびたび指摘されてきたことだが、薬に認可を出す厚生官僚の多くが、製薬会社や製薬会社が後援する独立行政法人などに天下っている。また、官僚達は現役時代から講演やアルバイト原稿など「あの手この手で業界に飼い慣らされている」(鈴木氏)ケースも多いと言う。そもそも現役官僚にしてみれば、製薬会社は自分たちの先輩たちが役員の座にあり、しかも将来自分たちがお世話になる可能性が高い再就職先の候補なのだ。そのような中で、政府が製薬会社に中立かつ厳正な立場で安全性を要求し、また責任を追求することが期待できるはずもない。

 同じような理由で、薬害の発生の疑いが明らかになった時、官僚達は直ちに対応を取れず、問題が長年放置された結果、薬害被害が必要以上に広がることが多い。しかし、官僚の立場に立てば、一度認可を出した薬の認可を取り消すことは、自らが所属する役所が、そしてそこの先輩官僚が下した決定が間違っていたことを認めることを意味する。2年程度で役職を転々とするキャリアー官僚にとって、任期を無難に済ますことが出世の条件である以上、この問題も今の国家公務員の人事制度のもとでは、改善は期待できそうもない。

 官僚は保身に走り、製薬会社は責任追求を恐れずに利益を追求でき、製薬会社に飼い慣らされた学者たちがメーカー寄りの立場から医薬品を評価して政府に答申をする。このような多重癒着構造の中で、薬害の温床を一掃することなどできるはずがない。

 更に鈴木氏は、近年製薬業界にはもっと深刻な問題が持ち上がっているという。それは、M&Aで巨大化したビックファーマ(巨大多国籍製薬企業)が、研究者や医療機関などに広範な便宜供与や資金援助を行った上で、薬の効能のPRに莫大な広告費をかけて世界中の市場を支配し始めていることだ。例えばタミフルのように、薬害の疑いが浮上しても、それを評価する専門家たちが、根こそぎ製薬会社の影響下にあるという事例も、もはや当たり前になってきている。

 また、仮にそうした流れから一線を画して、日本だけが薬の認可基準を厳しくすれば、一時的に薬害は減るかもしれないが、日本の製薬会社が国際市場で競争力を失い、気がついたらタミフルの中外製薬がロッシュ傘下に組み込まれているように、軒並みビッグファーマのM&Aの餌食となりかねない。日本が、官僚と業界、学会の癒着などという初歩的な問題でつまずいてるうちに、製薬業界はグローバル化の大きなうねりに飲み込まれようとしているようだ。

 薬害HIV訴訟でも弁護団長を務めるなど、法律家としては薬害問題の第一人者である鈴木氏に、そのような状況の下で、いかにして薬害肝炎問題から教訓を導き出し、それを将来の薬害の再発防止に役立てていくか、そのために私たちは何を注視すべきなのかを聞いた。

<関連番組>
スペシャルリポート(2008年1月23日)
川田龍平参議院議員インタビュー

プレスクラブ(2008年01月16日)
山西美明氏(薬害肝炎訴訟弁護団)、福田衣里子氏(薬害肝炎訴訟原告)、川田龍平氏(参議院議員)記者会見

<ゲスト プロフィール>
鈴木 利廣(すずき としひろ)弁護士・薬害肝炎全国弁護団代表
1947年東京都生まれ。69年中央大学法学部卒。76年弁護士登録。薬害エイズ事件被害者弁護団事務局長、『医療問題弁護団』代表、薬害オンブズパースン会議代表を歴任。04年、明治大学法科大学院教授を兼務。著書に『患者の権利とは何か』、共著『医療事故の法律相談』、『生命倫理とはなにか』など。

萱野 稔人(かやの としひと)津田塾大学国際関係学科准教授
1970年愛知県生まれ。2003年パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。哲学博士。東京大学21世紀COE「共生のための国際哲学交流センター」研究員、東京外国語大学非常勤講師を経て、現職。著書に『国家とはなにか』、『権力の読みかた』など。

January 27, 2008



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コメント

投稿者 干潟 

神保さんの鈴木氏に対する話の引き出し方が冴えて、薬害の全体像が良く理解出来ました。
問題の力点が時代により、異なる。今は天下りの弊害ばかりに目を奪われるべきでない。制度の改善のみでなく、利益の衝突においても倫理の必要性を説く鈴木氏のコメントが最も印象に残りました。
ここにおいても弱肉強食の状況から我が身を守るために人間性を捨て去ることが起ろうとしている。
鈴木氏は「ここは踏ん張って」と言われていたが、ここだけは賛成しかねました。命に直接関わる業界がM&Aの恐怖に晒されることのない規制となんらかの保護が必要ではないでしょうか。今更この流れは止められないと諦めるべきでは無いと思います。

January 27, 2008

投稿者 やんほ 

今回の放送では、薬害C型肝炎を中心に医療課題を改めて学ぶ機会を与えて頂き感謝します。いつもながら神保さんらマル激スタッフ一同の努力に感謝しております。
医療従事者として、僭越ながら少し意見と希望を述べさせて頂きます。
これら患者の権利が守られない医療システムの背景には、OECD国内でも最低レベルの医療福祉費(たしか教育費も最低でしたね)と行政の無策があります。
一人当たりの医療費、特に薬剤費や検査料以外の専門家としての技術料が極めて安く、また人員もかなり少ないこと、また医療費総額を増やしてしまう方針は実施されていないことは大手マスコミでは全く報道されません。
例えば病院のベッドあたりの医師数は欧米の5分の1から10分の1ですし、自己負担金でなく1件あたりの費用総額は欧米の3分の1以下となっています。長時間労働に疲れた医療従事者は新たな試みをできない実情にあります。
そういう中、医療事故が起これば、たとえば奈良県の産科事故の報道のように、「医療従事者がさぼっている」という印象を与えるばかりで、結果として医師不足対策や医療システム整備を怠ってきた行政の責任には触れていません。
僻地などの「医師確保」の報道の度に、私たち医師は捕獲される身分なのか、となんとも悲しい気持ちになるのは私だけでしょうか。
大手マスコミが扱えないこれらの医師不足の実情や医療システム不備およびその対策提言についての番組作成を望んでおります。
個人的にはいろいろアイデアもありますが、すでに長文となりましたのでこの辺で。

February 4, 2008

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