NHK裁判で見落としてはならないこと

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マル激トーク・オン・ディマンド
第306回(2007年02月09日)
NHK裁判で見落としてはならないこと
ゲスト:山田健太氏(専修大学助教授)

プレビュー

 東京高裁は先月29日、NHKに対し、不当に番組内容を改編して精神的苦痛を与えたとして、女性国際戦犯法廷を主催した「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(バウネット)への200万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。

 この裁判の結果についてはメディア各社がそれなりに大きく紙面や時間を割いて報じてはいるが、期待権や編集権に関わる諸問題が大きく取り上げられている割には、どうも歯切れが悪い点が一つ目につく。それは、結果的に裁判では明らかにならなかった、「政治介入の有無」と「そもそもなぜNHKは政治介入を許してしまうのか」という最も基本的な問題だ。そこをきちんと検証しなければ、この問題は単に「取材者は取材協力者にいたずらに期待を持たせるようなことを言ってはいけませんよ」という取材上のマナーを一つ規定したに過ぎないものに矮小化されてしまう恐れがある。

 この裁判では、予算や人事を国会に握られているNHKの上層部が、「説明」と称して、大挙して有力政治家に対して陳情を行っている実態が明らかになった。そもそも国会の場で公然と議論をすべきNHK予算の中身を、なぜ事前に密室の中で説明して回ることが問題にならないのかも解せないが、本来政治を監視しなければならない立場にある報道機関が、政治家に何かを「お願い」しなければならない立場にあるとすれば、それ自体が重大な問題だ。その過程でNHKがさまざまな政治的圧力に晒されることは誰の目にも明らかだからだ。今回の判決では具体的な圧力の存在までは証明されなかったとなっているが、それはそもそもこの裁判の中心的な争点ではなかったし、それが裁判では「具体的」には立証されなかったからといって、あたかも政治的圧力がなかったとするかのような一部の報道は論外である。

 今回名指しをされている安倍晋三氏や中川昭一氏は、今や現職の首相と与党の政調会長という日本の最高権力者の地位に就いている。その有力政治家らによって行使されたとされる影響力が、「具体的」なものだったのか、あるいは、NHK側が「具体的ではない」政治家側の意図を「忖度」して自主的に番組内容を改編したのかの違いは、この際ほとんど意味をもたない。要は、NHKの政治に対する構造的とも言える脆弱性故に、実質的な編集権を自ら放棄し、結果として視聴者の知る権利が損なわれたこと、そしておそらく同様のことが日常的に行われているにちがいないことこそが、ここでは最大の問題なのだ。

 メディアと政治の関係に詳しい山田健太氏は、今回の問題の本質は政治の言論介入が強まる中、「メディアが過度に防御的になっており、逆にそれが権力に対する脆弱性を高めていること」であると主張する。そうした上で、「NHKは単に普遍性や中立性を謳うだけでなく、BBCのように多様性を広げる方向へ外部からの力をもって変えていく必要がある」と、この裁判の結果が具体的な行動につながることの重要性を説く。

 また、この裁判が露わにしたもう一つの問題として、山田氏は他の主要メディアがこの裁判の本質から意図的に目をそらしたかのような報道をしている、いわばメディア業界全体の体質問題をあげる。再販、記者クラブ、税制面での優遇等々、数え上げたらきりが無いほど多くの特権を享受するメディアが、知らず知らずのうちに既得権益者として完全に政治に取り込まれているのではないかとの懸念は色濃く残る。

 山田氏はまた、「強者が弱者をいじめる」かのような形で繰り広げられる昨今の高額の名誉毀損裁判の実態にも懸念を表明する。此度のNHK裁判は市民団体が巨大メディアを訴え勝訴する異例のケースとなったが、損害賠償額に応じて訴訟費用が増額する日本の裁判制度の特徴故に、政治家や大企業ばかり次々とメディアを訴え、一般市民は泣き寝入りするしかないというお決まりのパターンは、権力のメディア介入をより容易にしてしまっている。雑誌の電話取材に応じたフリージャーナリストが、オリコンから5000万円の損害賠償訴訟を起こされたケースも、その一例と言えるだろう。

 ことほどさようにメディアをめぐる環境は厳しくもあり、また深刻でもある。しかし、メディアの荒廃が市民社会全体に多大な悪影響を及ぼしていることが否定できない以上、この問題を放置することはできない。そのためにはNHK裁判で明らかになった問題を一つ一つ検証し、それを解決に向けた行動へと結びつけていくことが重要となる。

 今週のマル激では、NHK裁判が明らかにしたNHK問題とは何なのか、メディアの構造問題とは何なのか、メディアと政治の関係は今どうなっているのかを、山田氏とともに考えた。

<ゲスト プロフィール>
山田 健太やまだ けんた
(専修大学助教授) 1959年京都生まれ。84年青山学院大学法学部卒業後、日本新聞協会入社。06年より現職。日本出版学会理事、自由人権協会理事・事務局長などを併任。専門はメディア法、ジャーナリズム論。著書に『法とジャーナリズム』、『マス・コミュニケーション概論』など。

February 11, 2007



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コメント

投稿者 co2 

「 不都合な真実 」に関してのことですが。スウェーデン大使館に勤めていた小澤徳太郎さんという方のブログhttp://blog.goo.ne.jp/greenwelfarestate/e/c4cee2f1329e847f8dcaf363e75e2cda                で紹介されていた http://hideyukihirakawa.com/blog/archives/200701/202213.php                          に日本版の「 不都合な真実 」には意図的な?省略がなされていたようです。これは映画というメディアに力が働いたのでしょうか、それとも自主規制なのか。誰が何の為に判断した編集なのか、つまらないことしますね。

February 16, 2007

投稿者 タク庵 

昨夜のNHKニュース(20:45)を見てたら、安倍首相が、「不都合な真実」を観に行ったらしいニュースが流れました。

「らしい」というのは、なぜかアナウンサーは映画のタイトルを言わず、「アメリカのゴア元副大統領が中心となって制作された温暖化に関する映画」とかなんとか、謎謎のようなことを言っていたからです。

これだけ話題になっている『不都合な真実』というタイトル』を流すことに、NHKとしていったいどのような不都合があるのか、真実を知りたいところです。

ちなみに安倍首相は映画を見た後、記者団殿に「温暖化対策には政治のリーダーシップが必要」とのたまわれたそうな。はあ、京都議定書の国の首相が、映画を見ていまさらながら覚ったのでしょうか。ただその真意は、いまだに、「最大排出国の米中印を批准に向かわせるための日本のリーダーシップ」ということを意味するようでもありました。


February 18, 2007

投稿者 タク庵 

上記のニュースをNHKのサイトでもう一度確認したら、文章記事の方は「不都合な真実」というタイトルが書かれていました。
http://www.nhk.or.jp/news/2007/02/18/d20070217000143.html

しかし、テレビで流された映像の録画では、やはりアナウンサーはタイトルを語っていません。

文字にすれば出せるものをアナウンサーの口からはいえない不都合があるらしいです。

February 18, 2007

投稿者 9B 

タク庵氏のそのニュース、NHKオンラインで見てみると、それにしても「リーダーシップを発揮し・・・」と繰り返される安倍総理には苦笑。

日本語で国内向けニュースだから言えるでしょうが、そのままの翻訳で米欧中に流したら、沈黙でしょうか。不都合だらけですね(それも、ちゃちな)

枝葉末節には思いがけず本質が現れていたりするので、各国の「アレ?」を集めて見れたら面白いでしょう。
自分は語学が苦手で残念ですが、英語Newsだけでも、ディテールから意外な事実が見えます。

海外(記者・素人問わず)レポートで、spiceが効いていたら、商業化が成功しそうに思われますが。ネット時代ならではの。

February 18, 2007

投稿者 ノクノク 

どうやって、この番組を〈読め〉ばよいのか悩みます。そもそもビデオニュースもメディアであり利害当事者です。完全にはNHK、民放、新聞社を客体化できない。主体の一部にしかなってない。まるで猫が自分の尻尾をグルグルと追っかけ回してる姿が・・・。

気になったのは
「差別化できるから大手のメディアは堕落しててくれた方がありがたい」と
「多様化とは別に、中和的な大手メディアがあっても日本的で良いのではないか」
と言う"様"な発言です。

むしろ視聴者としては、マル激の本音が聞ける分、上記の様な二つのメッセージの方がインタビューを聞いてるみたいで面白いです。これはメディアが二重になっており、大手は丸い報道をし、中規模では鋭い報道をする形が常態化している。中規模もその構造に乗っかる形では無いか? この二重性は是認される物なのか、否定される物なのか考察が抜けてる様に思えました。マル激でも度々出てる『噂の真相』『創』『週刊文春』『JANJAN』など、ミディアムサイズの事情を説明しないと片手落ち。

第285回での、視聴者のロールプレイをしてる宮台さんの発言で「ジャーナリズムはエクスキューズ、ビデオニュースという金づるを潰したくなかっただけ」があります。しかし、このRPは間違いとも言え、ある観点から見ればジャーナリズムと経営判断は一致します。ジャーナリズムとしては独自性が出せ、経営としてもそれが売りになるからです。そこで潰されるのは活動家としての立場であり、大手マスコミの腐敗を容認してしまう姿勢となる事です。

昔は、上記のことを言っても"イチャモン"にしかならなかったですが、最近は構図が目立って来てる感じがあります。安易な批判は「まーた、批判してるよ」「チェックされる第四権力ってなんだそりゃ?」「相互批判と言うのなら、マル激も批判されなければおかしい」

そんな事を一人の視聴者としてアレコレ思いました。

February 22, 2007

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