記者会見クローズの主犯と鳩山さんとリバイアサンの関係

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 記者クラブ問題について、昨日ぼくがガバナンスの問題かもしれないと書いたのは、2つの可能性を想定してのことでした。

 まず一つ目は、鳩山さんがオープンにしたいと言っているのに、官邸官僚が言うことを聞かずに、勝手に記者会見をクローズにした可能性はなかったのかというもの。これは、民主党が、ディスクロージャー政策の一丁目一番地だった記者会見のオープン方針を転換したというよりも、民主党政権が官邸官僚の行動を掌握できてていないために、自分たちの意向通りの政策が実行されないという問題ということになります。要するに政権が自らのお膝元の官邸のガバナンス(統制)を握れていないことになり、これはこれで大きな問題です。なぜって、野党時代はあたり前にやってきた会見のオープン化という単純な方針においてさえガバナンスを発揮でないのであれば、他の大きな「革命的改革」なんてできっこないじゃないですか。

 この説は、今日付で日経ビジネスオンラインに井上理記者が「鳩山内閣早くも公約違反? 隠れた官僚支配の温床壊せず」で指摘しています。要するに官僚が悪者で、民主党はその悪い官僚に手玉に取られているという構図になります。

 しかし、ガバナンス問題にはもう一つの可能性がありました。それは、官邸トップの鳩山さんの意向に反する形で政府の施策が実行されているという意味では、現象としては同じことになりますが、官僚が独走暴走しているのではなく、もっと別のところに問題の震源地があった可能性です。具体的には、鳩山さんのすぐ下で総理の意向を上意下達し、それを実現するために官僚との間に入って調整を行う立場にある平野官房長官が、鳩山さんの意向通りに動いていない可能性です。

 これは井上記者が指摘するような官僚の独善的な暴走とはやや性格が異なりますが、トップの意向がねじ曲げられて実行されているという意味では、これもまた一種のガバナンス問題だと言えます。

 さて、この2つは結果においてはどっちにしても問題なわけですが、処方箋においては重要な違いが出てきます。ならば、まずは問題をはっきりさせねば。問題の所在が分からなければ直しようがないですから。(別に私が直すような問題ではないんですけれども・・・。)

 まあ、私は取材を生業とする者なので、この問題も普通に取材をしてみました。そこでわかったことが以下の結果です。

◆党と官邸の言い分の食い違いの理由は◆

 まず、今回の記者会見を、これまでずっと民主党がやってきたフルオープン方式ではなく、雑誌と外国報道機関の記者を数人は受け入れるが、基本的にはこれまでの自民党時代と同じ記者クラブだけに制限するという最終決定を下したのが、内閣記者会という記者クラブであるという基本線は押さえておきたいと思います。

 日本では政府の記者会見は記者クラブが主催をする「慣習」があるため、記者会見に誰が参加できるかのルールも記者クラブに決定権があります。これはこれで問題なのですが、私は基本的に記者会見がオープンにさえなれば、記者クラブごっこをずっとやっていてもらってもまったく問題はないという立場です。実は今回は、官邸の記者クラブの側でも、鳩山政権から「これから官邸の記者会見はオープンにするのでよろしく」と言われることは覚悟していたそうで、そうなれば会見のオープン化はやむなしという状態だったようです。むしろ官邸記者クラブとしては、やきもきしながら次期政権から指示が来るのを待っていたんですね。でもって、次期政権からなかなか指示が来ないので、わざわざ自分たちの方から民主党に、会見はどうするんですかと、問い合わせまでしています。

 さて、そこに政権発足直前になって、内閣記者会の方へ民主党から意思表示がありました。それは内閣記者会の「期待」に反して、なんと、今回の会見では雑誌と外プレだけに一部開くが、あとは開かなくていいというものでした。オープンにしないでいいと。

 もちろん、だからといって記者クラブ側の責任は免れません。そもそも記者クラブが自主的に会見をオープンにすれば最初から何の問題もないんですから。ただ、民主党から会見をオープンすると言われれば、もはやそれは避けられないと観念し、首を洗って待っていたら、民主党からオープンにしなくていいと言われて、オープンにするのをやめたということのようなので、記者クラブとはまた別の力が加わっていたことは明らかです。記者クラブだけではもはやオープン化の流れを跳ね返すことができないところまできていたのに、突然予期せぬ援軍が登場したわけです。

 結果的に、それが昨日の会見が、雑誌協会と外国報道協会加盟社の中の数人の記者にだけ参加を認めるという、フルオープンはおろか、事実上自民党時代と何ら変わらない記者会見になってしまった経緯でした。


◆本当の震源地はどこに◆
 今回の問題では、記者クラブ側は民主党から会見を開放する方針が伝えられれば、それは受け入れざるを得ない状況にあることを覚悟していたようなので、今回の問題は、いつもの記者クラブの閉鎖性問題とは異なる、また別の力の存在が明るみになった事例だったことになります。

 記者クラブ側に民主党の意向、つまり会見をオープンにしなくてもいいとの意向を伝えたのは、官邸の報道室という担当部署でした。次期政権を担う民主党の意向が、官邸の報道室を通じて記者クラブに伝えられたという形です。しかし、どうもその指示内容をめぐる関係者間の言い分が、矛盾しているんですね。

 民主党本部に対して、内閣記者会にはどのような指示を出したのかと聞くと、ネットメディアも含め、オープンにして欲しいとお願いしたと回答してきます。その結果として、ならば官邸の報道室が民主党の指示内容を勝手に変えて内閣記者会に伝えたのではとの疑惑が生じ、井上記者の記事のような説が出回ることとなりました。

 しかし、更にもう一歩突っ込んでみると、どうもそれもちがうようなんですね。官邸の報道室に「このままではそちらが党からの指示を曲げてクラブ側に伝えたことになりますが」としつこく確認を迫ったところ、報道室は「民主党から会見に入れるのは雑誌と外プレだけでいいとの指示があった」と言うんです。民主党の本部ではオープンと言ったと言い、報道室では民主党からクローズでいいと言われたという。一体これは何なの?

 両者の間を行ったり来たりしてようやく見えてきたことは、まず官邸の報道室に「雑誌と外プレだけでいい」という党の意向を伝えてきたのは、平野次期官房長官だったということです。これは官邸の報道室で確認済みです。しかし民主党はその事実を正確に把握しておらず、党の担当者にあれこれ突っ込むと、「平野氏からは、官邸にはオープンにするよう伝えたと聞いている」という、伝聞調レベルの確認しかとれていないことがわかりました。

 実際は正確な事実関係が確認できているわけではないのに、メディアからの問い合わせに対して民主党が「官邸にはオープンにするようお願いしてある」などと説明をするものだから、官邸報道室主犯説が出回ってしまったようです。要するに、官邸の報道室にオープンにしなくていいと平野次期官房長官(当時民主党役員室長)が指示をしていることを、党側で正確に把握できていなかったか、もしくは平野氏が党側に本当のことを伝えていなかったかのいずれかが、一連の混乱の原因だったということになります。

 官邸報道室主犯説と、平野官房長官(当時は民主党役員室長)主犯説の2つの犯人説が乱れ飛び、「早くも官僚にしてやられた民主党」なんて話が出始めていましたが、今回の会見のオープン化問題に関する限り、どうも事実はそういうことではなく、あくまで次期官房長官による政治主導の決定の結果だったということのようです。


◆総理の真意はいかに◆
 さて、会見をクローズにするという鳩山政権で最初の「重大決定」にして最初の公約違反の震源地がどこだったのかは、これではっきりしました。しかし、最後に残る最大の疑問は、果たして鳩山総理自身がこの事態を知っていたのかどうかです。

 もしこれが総理の意向で行われたことだとすれば、もともと総理自身が自ら会見のオープン化を公約しているのですから、責任は重大です。しかし、仮にそうだったとしても、いまさら総理も官房長官も「あれは総理の意向でした」とは決して認めないでしょうから、恐らくこれは最後までわかりません。

 もともと総理の泥を被ることも女房役の官房長官の仕事の一つなので、恐らく真実は永遠に闇の中です。(この先総理と官房長官がよほどひどい喧嘩別れでもすれば別ですが、そうなったときの両者の言い分はあまり信用できないですから。)

 それにそもそも主要メディアでは、この話は一行たりとも記事にしていないわけですから、記者クラブの加盟社の記者しか参加してない記者会見でこの問題が追及されることも、まずあり得ないでしょう。何十年もの間、官邸の記者会見を開放してこなかった自民党に、この「公約違反」を国会で追及してもらうことを期待するのも、ちょっと無理がありますよね。

 それに、そもそも平野官房長官は献金問題などの火種を抱える鳩山さんの脇を固める「トラブルシューター役」を期待されて総理の女房役に就いた方です。平野氏と鳩山総理の間で「メディア対応については私にまかせてくださいよ」という話になっていたとしても、それほど不思議なことではありません。


◆本当の黒幕が誰かは気にしておきましょうね◆
 私が一番気にしていることは、これまで記者クラブ問題というのは、メディアの既得権益という文脈だけで捉えられてきましたが、メディアがいよいよ観念して記者クラブ開放やむなしの方向に舵を切った時、実は記者クラブ制度における黒幕というか、本当のリバイアサンが顔を出してきたのではないかということなんです。つまり、記者クラブ制度というのは、一見メディアの既得権益問題に見えますが、実はそれは副次的な産物に過ぎず、この制度で一番得をしているのは実は統治権力に他ならないということです。

 統治権力にとっては、記者クラブなどという餌を与えてメディアを飼い慣らしておけば、こんなに楽な話はありません。特権を与えてもらっているメディアは、決して自分たちに真剣には刃向かってこないだろうし、しかも記者クラブという部屋で御用記事ばかりを書いて虚勢された記者たちは、もはや統治権力をチェックする気概も能力も持っていない。しかも、記者クラブ問題では、批判されるとすればメディアだけが批判され、なぜか第一義的な受益者であるはずの黒幕である統治権力は、ほとんど批判の対象にならない。

 だから、今回記者クラブが「もはやこれまで!」と観念したとたんに、いよいよ黒幕というか、真の記者クラブ制度の受益者リバイアサンが遂に姿を現し、「待った」をかけたと考えれば、今回の話の構造もとても分かりやすいと思いませんか。

 ただ、仮に今回の問題がそういう話であったとしてもですね、ぼくたちはそれを許してはいけないと思うんですよ。リバイアサンの暴走も専横もね。

 今回は震源地の特定までは白黒はっきりつけることができましたが、そこから先の最後の本丸が特定できないのが、申し訳ありませんが今の私の限界です。鳩山総理や平野官房長官に直接記者会見でこの問題を質せれば簡単に解決することですが、まだ会見には出られないので、今すぐにそれは叶いません。そもそもそんな質問ができる人が会見に入れていれば今回の問題もなかったわけで、例の「カギのかかった箱の中に入ったカギ」問題の解決は簡単ではないわけです。

 いずれ総理会見や官房長官の会見に出られるようになったら、それも聞いてみることにします。

 それにしても、昨日までは鳩山さんに記者会見やぶらさがりで何でも聞けたのに、権力の中に入ったとたんに、何一つ問いただすことができない雲の上の人になってしまったなんて、やっぱり権力っていうのは怖いし、厳しい監視が必要ですね。リバイアサンの本領発揮というところでしょうか。本当は、メディアが力を合わせて、リバイアサンと戦っていなければならないはずなのに、記者クラブメディアと非記者クラブメディアにまんまと分断されてしまってね。この分断統治こそが、リバイアサンのもっとも得意とする戦術であることを、ぼくたちは今あらためて肝に銘じる必要がありますね。
(取材協力・竹内梓、山本清香(ともにビデオニュース))

September 17, 2009



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