「検証・民主党政権で日本はどう変わるのか」第2回

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民主党政権の“ディスクロージャー”で問われる市民の覚悟
(ジャーナリスト 神保哲生)

 『検証・民主党政権で日本はどう変わるのか』、第1回目の前回は、民主党政権誕生の意味を、「まかせる政治から引き受ける政治へ」の表現を使って解説したが、実際日本では長らくおまかせの政治がまかり通ってきた。ここで言う「まかせる」は、“官僚にまかせる自民党に市民がまかせっきりの政治”という意味だ。まかり通ってきたというよりも、そもそもこれまで日本では、政治とりわけ国政に一般市民があれこれ口を出すことは、必ずしも好ましいとは考えられてこなかったとさえ思う。
 
 たしかに、戦後復興から高度成長期にかけての期間は、焼け野原から再出発した日本にとって、何よりも経済成長が優先課題であることは、誰の目にも明らかだった。あとはその目的を達成するための最も効率的な方法を、優秀な官僚たちに実践してもらえば十分だった。そこに市民があれこれ口を出す余地はなかったし、国がうまく回り、国民生活が豊かになっている以上、その必要性も感じられなかった。
 
 幸か不幸かその状況は、官僚機構が戦前から共有してきた「由らしむべし、知らしむべからず」の思想とうまくマッチし、まかせられた政府側は市民に対する情報公開にはいたって消極的な姿勢を取るのが常となった。
 
 この「由らしむべし、知らしむべからず」は、論語の「子曰民可使由之不可使知之」(子曰く、民はこれに由らしむべし。これを知らしむべからず)が出典だ。本来は「人々を頼らせることは容易だが、理解してもらうのはむずかしい」という意味であり、為政者に対して民の理解を得ることの難しさを諭し、そのためにはいっそう説明の努力をする必要性があると説く言葉である。それがどういうわけか、「愚かな民は頼らせるべき対象であり、わざわざ知らせる必要はない」を意味するものと曲解されてきたのだから、皮肉としか言いようがない。これは、できる・できないを意味する可(べし)・不可(べからず)を命令形(~せよ・~するな)と勘違いしていることからくる単純な誤解で、受験で古文をしっかり勉強したはずの官僚たちが知らないはずがない。おそらく確信犯的に誤った解釈をしてきたのだろう。
 
 理由は何にせよ、情報公開が決定的に足りないため、これまで市民は政府の意思決定に主体的に関わることができなかった。それが政治への無関心を呼び、さらには市民社会と政治の距離を広げる悪循環となってきた。

民主党政策の肝は「ディスクロージャー」

 民主党の政策関係の資料には、いたるところに「ディスクロージャー」の文字が登場する。ディスクロージャー(Disclosure)は「露出」や「発表」を意味する英単語だが、政治の世界では通常「情報公開」を意味する。
 
 政治や行政が持つ情報を、できる限り有権者や納税者などの一般市民にオープンにしていく姿勢が民主党政権の重要な要素であり、それが公約でもある。民主党の政策には「オープン・アンド・フェアネス」という基本理念が流れているが、この「オープン」のなかに、前回紹介した5つのDNAのうち「情報公開(ディスクロージャー)」と、社会そのものをより開かれたものにしていく「包摂と参加」の2つが含まれる。とくに前者はすべての政策に通底しており、これまでの自民党政治との最大の違いもそこにあると筆者は判断している。
 
 残念ながらこれまでの日本は、先進国としては明らかにディスクロージャー後進国だった。1999年に情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)が制定されているが、その内容は「情報非公開法」と揶揄されるほど使い勝手が悪く、「国民の知る権利」や「原則公開」といった情報公開法の基本理念とされる要素すら明記されていない代物だった。
 
 民主党政権ができたとき、最初に官僚の激しい抵抗に遭うのが、おそらくこのディスクロージャーだろう。とにかく官僚は情報公開が嫌いだ。一般市民に情報公開などしても、ロクなことがないと思っている。そもそも情報公開を前提とせずに意思決定をしてきているので、いざ公開となれば、とてもではないが国民に説明がつかないことが多すぎる。
 
 もし民主党政権ができたなら、政権のトップつまり内閣総理大臣が、「この政権ではディスクロージャーを徹底する」旨をいち早く宣言すべきだろう。国民のみならず官僚に対してもそうした強い意志を明確に示さなければ、政権はディスクロージャーでつまづく可能性がある。そして、ディスクロージャーが徹底できなければ、民主党政権はほとんど何の成果も上げられない可能性さえある。それはディスクロージャーに対する姿勢こそが、自民党政権と民主党政権の最大の違いと言っても過言ではないからだ。


政治でも経済でも温暖化対策でもディスクロージャーを推進

 民主党の原口一博NC(次の内閣)総務大臣は、政権を取ったら情報公開法を改正したいと語っている。本稿執筆時点(2009年7月22日)では、情報公開法の改正が民主党のマニフェストに入るかどうかは定かでない。だが、前回お伝えしたように、民主党政権をマニフェストだけで判断してはいけない。
 
 民主党は自分たちのやろうとしていることをすべてマニフェストに書き出しているわけではない。やりたい政策のなかから、選挙用のウリになるものを並べているだけだ。それを実行できなければ公約違反となるが、逆にそれ以外の政策を実行しても公約違反とはならない。
 
 政府の情報公開の姿勢を示す規範法となる情報公開法に、先述の「国民の知る権利」と「原則公開」の2語を入れられるかどうかは、その他の政策への波及効果という意味でも、官僚機構に対する意志表示という意味でも、大きな意味を持つ。
 
 ちなみに「知る権利」とは、すべての行政情報は税金を使って公務員が集めた国民の資産であり、当然ながら国民はこれらすべてにアクセスする権利があることを明確に示したものだ。
 
 一方、国民には原則的にすべての情報を公開しなければならないとはいえ、外交交渉や犯罪捜査情報、プライバシー情報など、情報公開法から除外すべき種類の情報もある。それらを明確に定義し、公開を拒絶する場合、その情報が除外規定に入ることの挙証責任を行政側に課すというのが「原則公開」の考え方である。
 
 民主党の政策には情報公開法以外にも、ディスクロージャーが目白押しだ。
 
 小沢一郎前代表の秘書の逮捕で大きな議論を呼んだ政治資金規正法についても、民主党はこの事件が表面化するはるか以前から、政治資金の報告義務の強化や外部監査の義務づけなど、政治資金のガラス張り化を公約に掲げていた。
 
 他にも、危険情報公表法、犯罪捜査における取り調べの可視化、公共事業の競争入札や随意契約の情報公開義務づけ、議員と官僚の接触の情報公開義務づけ、候補者情報へのアクセスを容易にするインターネット選挙運動の解禁、年金通帳交付を通じた年金納付記録の閲覧公開、加工食品や外食の原産地表示義務づけとトレーサビリティの徹底、CO2の見える化等々、民主党の政策はその大半がディスクロージャー政策と言っても過言ではない。これらの政策については、拙著『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』で、より詳しく解説してあるので是非ご一読いただきたい。


ディスクロージャーで市民の責任は重くなる

 よほど大失敗しない限り、民主党政権ではディスクロージャーが大きく進むことは間違いないだろう。自分たちの仕事が丸裸にされる官僚を別にすれば、市民側としては情報公開が進むのは総じて歓迎すべきことだし、そう思っている人が多いに違いない。しかしそうした方々に、いくつか前もって警告しておかなければならないことがある。
 
 まず、行政や政治家や企業のディスクロージャーが進んだとしても、それを利用するかどうかの選択は、基本的に市民側にゆだねられているということだ。いくら情報公開が進んでも、国会議員の政治資金収支報告書が毎月各家庭に送られてくるわけではない。ディスクロージャーがどの程度意味を持つかは、あくまで市民がそれをどれだけ活用するかにかかっている。
 
 前回お伝えした「まかせる政治から引き受ける政治へ」は、まさにこのことを指す。情報公開さえ進めば、自動的に世の中の見える化が進み、結果としてより良い社会が達成されるというほど民主主義は甘くない。そもそもディスクロージャーという考え方自体が、「どこかの誰かがその制度を利用して社会の透明化を進めてくれるに違いない」という他力本願の発想を前提にしているものではないのだ。市民1人ひとりが情報公開の結果を引き受ける覚悟が必要になる。
 
 むしろ、ディスクロージャーの推進によって、これまで情報を公開しない代わりにすべての責任を引き受けてきた(いざ問題が起きたときは責任逃れをするが)官僚の責任は軽くなり、その分、市民の責任が重くなることを十分に認識しておく必要がある。
 
 情報が公開されているのだから、市民は意思決定に参加することもできるし、異議申し立てをすることも可能だ。つまり、ディスクロージャーが十分に保障された制度の下で行われた政府の意思決定には、自動的に市民も参加していることになる。少なくとも、政府が勝手に決めたことだとは言えなくなる。
 
 ディスクロージャーというのは、一見、よいことづくめに思えるかもしれないが、実は市民に対して重い責任を背負う覚悟を求める制度なのである。ディスクロージャーが進む民主党政権下の日本では、社会が良くなるか悪くなるかを、これまでのように「お上」のせいにすることはできない。社会をよくするのも市民、悪くするのも市民。それがディスクロージャー政治のもう一つの顔なのだ。
 
 そしてそれこそ、民主党政権が「まかせる政治から引き受ける政治」への転換を意味すると筆者が繰り返し説く理由でもある。

August 1, 2009



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